太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

大石哲之『コンサルタントの読書術』感想〜100円で身に付くアウトプット駆動型読書術

コンサルタントの読書術 確実に成果につながる戦略的読書のススメ


成果に繋げるコンサルタントの読書術

 本書はコンサルタント、というよりも『The domain name nomad-ken.com is for sale』で展開されているノマド論で有名な大石哲之氏の読書本です。いまさら読書本もないかと思いつつもkindleで100円かつ、評判も上々だったのでどんなものかと読んでみました。

 結論から言えば最短の時間でベストエフォートなアウトプットを作るための読書方法という点についてかなり効果が高いと思います。ある業界について1週間でプレゼンテーションしたり、課題を掴んで改善点を指南したりといったシチュエーションにどう対応するか。コンサルティングの定石を読書に応用して、以下の観点から成果に繋げる実践的な方法が書かれています。

  • 本を読む目的をフォーカスする
  • 本をスクリーニングする方法、タイプ別の分類と読み方
  • 読書におけるPDCAサイクルの実践
  • 読書を成果に結びつける方法

 私自身はコンサルタントではありませんでしたが、未経験業界でのシステム化提案や要件定義などを求められる事もあり、その意味ではITコンサルの真似事をせざるを得ない事もありました。ですので想定されるシチュエーションやテクニックには懐かしさを感じる部分もありましたが、血肉化できてない部分も多々あったと再認識することにもなりました。

一点突破、天元突破

 本書では全体像をフレームワークに沿って整理し、そこから「選択と集中」を行なった仮説を掘り下げるというコンサルタントの仕事術について書いています。これはそのまま読書にも利用できます。

  • 自分が取得した知識・スキルの全体を俯瞰して、そこから狙いを1点に絞って、そのあとは集中読書
  • 読書は仮説検証をしながら読み、すぐに実践に結びつける

 仕事の進め方としては意識できていても、読書となると、逆の事をしてしまいがちでした。順を追ってひとつづつ理解していこうとしたり、読んだ事で満足してしまったりということです。これをしてしまうと、時間ばかり掛かって成果に繋げることできない可能性が高まります。

1冊の本から多くを学ばない

 だいたい、目的の内容が1だとすると、9についてはほかの書いてあると言っていいでしょう。
 多くの人は、とても役立ちそうなことなので、目移りして全部学んで覚えて実践しようとする。
 すると、当初の目的以上のものを1度に複数身につけないといけないということになります。10のことを1度に覚えて実践しようとするのです。だから、破綻します。

 1冊1冊の本から得るものは少なくても、同じような本を10冊単位で読むというのを立花隆が『「知」のソフトウェア (講談社現代新書)』などで書いていて、やっていたことがあります。すると重要な概念は何度も出てきますし、本ごとに異なる角度から説明されて理解できるようになってきます。まだわかっていない分野について1回読んだだけで理解するのは至難の業です。なので何度も似たような本を読むことで理解できるというのは実感できます。

アウトプット駆動型読書

 コンサルタントが行う必殺技の1つに、あらかじめアウトプット設計してから調査するという手法があります。
 (中略)
 この例ではパワーポイントの説明を20枚書く、というのが最終的な成果です。
 ですから、成果から逆算して、集中と選択を行います。本を読み始める前に、まずレポートの構成のほうから先に作ってしまうのです。
 最初の5ページは業界の市場規模や成長性、競争環境についてまとめよう。次の5ページでは主要なプレイヤーの動向、次の5ページでは云々という*1ったように設計します。さらにそれぞれに*2ページに対して、具体的な成果イメージを想像して、白地図みたいなものを書き込んでしまいます。

 この文章を読んで「議事録ドリブン会議」を思い出しました。「議事録ドリブン会議」とは先に議事録の枠組みがあって、そこが埋まるように意識してヒアリングし、議事録が完成した時を会議の終了とする方法です。「会議とは議事録を共同で作成する作業である」という認識変換が行なわれることで、効率的に決定事項とアクションプランを積み上げる事ができますし、後から覆されることも少なくなります。

 本書の指摘どおり、読書でも同じことができます。直近で求められている成果物のイメージに対して、「何が不足しているのか?」という観点で問題意識を作って、そこを掘り下げるように読んでいくことで効率よく情報を取り出すことができます。その前までのエントリと矛盾をしているように思えるかもしれませんが、「現在のところ目指すべき時に足りないものを埋める」のと、「長期的に目指す時に足りないものを埋める」ことは異なります。

問題意識とセレンディピティ

 本書では問題意識を明確にした読書を重視していますが、するとセレンディピティによって別にフォーカスしていた時の問題意識と繋がっていく事を指摘します。すると先に主目的のアウトプットがありながらも、複数種類のレポートやマニュアルを同時にブラッシュアップしている状態になります。

 アウトプット駆動型読書で作成されたレポートやマニュアルは、「その時点の私にとっての最高」ではありますが、その先がないわけではありません。自分なりのレポートやマニュアルを作っておけば別の本を読んだ時に出会った記述と結びついて、よりブラッシュアップできる可能性が高まります。私がシステム手帳を利用するのはこのためなのですが、より徹底した方が良いと改めて思いました。

 「その時点の私にとっての最高」は本を読み終わった段階で作られるわけではありません。途中までであっても、「その時点の私にとっての最高」は作れます。その幻想をぶちのめしてもらうために読書を進めていくことで1冊の本が血肉になります。本書では「電車で読む」という事で中断時間を敢えて作ることが良いという経験則が語られています。

多層的な問題意識と妄想戦士

 この話は「自身に複数のレイヤーを持つ」という議論とも関連しています。本書の例であれば製薬会社のレポートそのものを成果物として求めてられているかに関わらず作ってしまって良いですし、既に作った別の成果物のブラッシュアップに使ってはいけないという理由はありません。

 それをお客様に直接的に提示する事はありませんが、自分なりの問題意識や不足を意識することで同じミーティングから得られる事や発言内容がマシになっていきます。これはコンサルタントになったつもりで用意しておくことで、実際的な能力向上と発言力を得られるということです。またプライベート用のマニュアルのブラッシュアップをレイヤーに加えておく事もできます。その意味では「仕事の報酬」を会社が定義するものだけに留める必要はありません。

 これは「1冊の本から多くを学ばない」ことと矛盾するようですが、あくまで先に第一目標があって、第一目標については「1冊の本から多くを学ばない」という事であると思います。当座のフォーカス以外の事については即時的に実践できるわけでもなく、フォーカスを戻した時のフックとして蓄積しておくという事です。

まとめ

 他にも本の選び方やPDCAなどについて書かれています。本書はAmazonのKDPによる個人出版物として僅か100円で販売されているものですが、紙の本にして120ページ程度あり、そのクオリティも高いので、ブログをまとめたような本が多いなかでは異質です。校閲に十分なリソースがかけられなかったのか、いくつかの誤字が見受けられもしましたが、得られる情報量にはあまり関係ありません。ですので、このような形の本がもっと増えていけば良いのにと思いました。

 同じ読書と言っても名著を何度も読む事で得られる事もあるでしょうし、娯楽に成果は必要ありません。なにも、すべての読書を本書のような読み方にしろという事ではなくて、あくまで費用対効果を意識して最短の時間でベストエフォートなアウトプットを作る文脈のためのものです。

 自由にできる体力や時間が減ってくると、経験主義のままでいたり、教科書を最初から読むのは難しくなっていきます。それでも求められる事は増えてきていますし、未経験の分野を仕事にしていく事もあります。本書で書かれたことを意識して成果に繋がる読書をしていくよう実践に繋げたいと思いました。

*1:ママ

*2:ママ