太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

はてなブックマーク圏における人工的環世界と縮小現実の可能性について

http://www.flickr.com/photos/33108464@N08/4374761179

photo by dacheket

環世界を持つこと

 僕の中で重要だと思っている概念のひとつに「環世界」というものがあります。これは『自己愛のリスク分散とありえた自分の死体の山、または12人の妹がいれば1人死んでも悲しさは12分の1で済むのか問題 - 太陽がまぶしかったから』において、「複数の指標の組み合わせを持った私が存在する複数の可能世界」を考える基礎になっていますが、「環世界」そのものは空想上の話ではありません。

環世界(かんせかい、Umwelt)はヤーコプ・フォン・ユクスキュルが提唱した生物学の概念。環境世界とも訳される。
すべての動物はそれぞれに種特有の知覚世界をもって生きており、その主体として行動しているという考え。ユクスキュルによれば、普遍的な時間や空間も、動物主体にとってはそれぞれ独自の時間・空間として知覚されている。動物の行動は各動物で異なる知覚と作用の結果であり、それぞれに動物に特有の意味をもってなされる。


環世界 - Wikipedia

 『生物から見た世界 (岩波文庫)』においては分かりやすい例としてマダニがあげられています。Wikipediaにも載っていましたので、そのまま引用します。

マダニというダニの一種には視覚・聴覚が存在しないが嗅覚、触覚、温度感覚がすぐれている。この生き物は森や茂みで血を吸う相手が通りかかるのを待ち構える。相手の接近は、哺乳動物が発する酪酸の匂いによって感知される。そして鋭敏な温度感覚によって動物の体温を感じ取り、温度の方向に身を投じる。うまく相手の体表に着地できたら手探りで毛の少ない皮膚を探り当て、生き血というごちそうにありつく。この生き物にとっての世界は見えるものでも聞こえるものでもなく、温度と匂いと触った感じでできているわけである。しかし血を提供する動物は、ダニの下をそう頻繁に通りがかるわけではない。マダニは長期にわたって絶食したままエサを待ち続ける必要がある。ある研究所ではダニが18年間絶食しながら生きていたという記録がある。


環世界 - Wikipedia

 マダニの世界は「温度と酢酸の匂いと触覚」だけで出来ています。物理的な世界は同じなのに、認知している指標によって世界のあり方は変わるのです。同じ人間でさえ犬が判別できる臭いや音を一般的には感知できないですし、4原色で見える眼を持つ人も居ますし、障害を持っている人もいます。

感覚器拡張の道具とそれをON/OFFできる理性

 その上で、人間には「感覚器拡張」のための道具を作れるという能力を持っています。眼鏡や補聴器は言うまでもなく、ガイガーカウンターやオシロスコープ、ラジオやテレビ、そしてインターネットやスマートフォンなどにまで広がります。人間はそれらの指標を読み取り、解釈することによって世界のあり方を比較的任意に変える事ができるのです。

 これらの道具は一種の「拡張現実」であり、環世界の構成において「単位時間あたりの情報量を増やしたい」というパラダイムのために利用されてきました。しかしながら、常にラジオをONにしておくかと言えばそんな事はありません。集中力を乱すし、眠る事もできません。そこにあると分かっているのにも関わらず音量を下げたり、ON/OFFを任意切り替えられる事こそが人間の理性であり、人工的環世界の特長です。

はてなブックマーク圏と拡張現実

 はてなブックマークは特殊なウェブサービスです。既にあるウェブサイトに対して、コメントやブックマーク数というメタな発信器/感覚器を環世界に構成できるようにします。もともとウェブサイトにメモを書いて共有できるサービスはありましたし、過去のニコニコ動画もYoutube動画へのメタ発信器/感覚器という性質を持っていました。しかし『そろそろ、はてなブックマークスパム問題について当事者から語っておくとするか - 太陽がまぶしかったから』なんて事が問題になってしまうぐらい日本のWEB圏を侵食しているメタ発信器/感覚器は珍しいのではないでしょうか。

 プロトコルが一致している者だけが感知できるはずのものが、SNSやGunosyなど他のプロトコルにも侵食することで、環世界への侵食が行われているということです。検索エンジンやニュースサイトもそうなのですが、その侵食感や実際の短期流入においてはかなり多いというが実感です。食べログは店の収益を侵食しているし、ステマの方が物理的な世界に侵食しているわけですが、普通のブログだって広告収入であったり、感動でも議論でも出版依頼でも「人を動かす」ことをクロージングにしている場合が多々あるという意味では同根です。

 そのためにはコンバージョン率を上げる努力をしつつも、一定以上のPVが前提となってくるという考えもあります。イケダハヤトのいう「影響力の魔法」ですね。その意味では「侵食のための侵食」という入り口になっているのです。

 世の中には「まだ伝わっていないけれど、価値があるもの」が無数に埋もれています。 ライター活動とマーケティング支援を行う私は、自分の活動を「価値あるものを伝える」という言葉で表現しています。これは個人ニュースメディアを運営していた中学生の頃(今から10年前)から抱いているミッションです。


 フォロワー数や読者数が伸びていけば「価値あるものを伝える」力も強化されていきます。例えば、2万人のフォロワーがいると、この人は素晴らしい!と思った人をツイートで紹介するだけで、その方のフォロワーを数十から百人単位で増やすことができたりします。


 上記の例は些細な話ですが、そうした「紹介」はしばしば強烈な化学反応を生み出します。ある時は、私がツイッターでスタートアップ企業を紹介したことをきっかけに、その会社に資金調達の話が舞い込みました(私のツイートをベンチャーキャピタリストの方が読んでくれていたようです)。

 しかし、そればかりを考えていても、実際にできるかどうかは別問題です。PVが少ないとか、はてなブックマークが付かないと嘆いてダークフォースに目覚めたり、やめてしまうというも勿体ない話です。そんな時は環世界のチューニングを変えてみるのが良いのではないでしょうか。

僕の知らない感覚器と縮小現実

 そして、はてなブックマーク以外にもメタ発信器/感覚器は多々あり、それを認識できているかによって話は変わってきます。それはYAHOO砲だのGIGAGINE砲や2chや検索エンジンなど、色々あるとは思います。「BUKUMAガールズ」と言うスマホアプリがあって、はてな女子のブックマーク率の高さはそれも影響しているそうです。自分が認識できない感覚器は意外にあるものです。

 その一方で、拡散してほしくなかったり、ブクマコメントが嫌だと思う人も居ます。『「ブクマ」が壊すブログの平穏 - 雪見、月見、花見。』であり、その派生記事である『短くなれー、黄色い棒→追記あります - ひきこもり女子いろいろえっち』ですね。

「見ていーよ」って限定した人だけに見れるSNSじゃなくて、自分の知らない人のいる世界でいろいろ書きたくなった。


それで、こーいうオープンな場所に出てきたけど、こんどはそこは「世界中に発信してる」っていう壮大な場所だった。


「これぐらいでいーのに」っていう中間の世界がないから、選択肢が極端すぎて、自分がどっちにも合わないと、いろいろ悩むー。

 僕自身はある時期から拡散希望のパラダイムになったのですが、そうじゃないパラダイムの人がいるのも理解できます。ブログのコメント欄が好きじゃないので『ブログにコメント欄を用意しないのは「一般意志2.0」を実現するため - 太陽がまぶしかったから』なんてのを書いたぐらいなのですが、逆にログのコメント欄を利用しないでブクマコメントをするのは無礼だという考え方の人もいます。これを実現するのは拡散現実に対する縮小現実の可能性です。

 ブクマコメントを非表示にする設定もありますし、そもそもアクセスを気にしないというのもひとつでしょう。それでも問答無用に侵食してくる発信機/感覚器があって、おもむろに巻き込まれてしまう事も多々あるとは思います。僕はテレビを持っていないのですが、それは自身の人工的環世界を構成するのにあたって、テレビをOFFにする理性を消費するのが勿体ないから、物理的に置かないという選択をしています。それでも、Twitterではあまちゃんや半沢直樹の話が流れてましたし、「じぇじぇ」とか「倍返しだ!」とか覚えてしまいました。『ここ数ヶ月苦しめられたあまハラからようやく解放される』みたいな。

 じゃあ、どうするのかと言われると難しいのですが、人工的環世界を作ったら、それをOFFにしたり、音量を下げることも可能にするのが人間の理性であり倫理です。はてブ拒否設定などをうまいこと考えられないかなーって思います。

生物から見た世界 (岩波文庫)

生物から見た世界 (岩波文庫)

  • 作者: ユクスキュル,クリサート,Jakob von Uexk¨ull,日高敏隆,羽田節子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/06/16
  • メディア: 文庫
  • 購入: 23人 クリック: 209回
  • この商品を含むブログ (126件) を見る

関連記事