太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

「駐屯兵団」としてアイロニカルなダンスを踊る

DVD付き 進撃の巨人(14)限定版 (講談社キャラクターズA)

組織における役割分担

 『「普通」の道筋を増やしていくために壁を超える~森山たつを『セカ就! 世界で就職するという選択肢』 - 太陽がまぶしかったから』では「壁を超える*1」と書きましたが、これは『進撃の巨人』における「調査兵団」をイメージしていました。

 『進撃の巨人』では巨人が跋扈する世界において、「壁」に囲まれた生活圏を巡る軍部の駆け引きが描かれるのですが、これを象徴するかのように3つの兵団が登場します。

兵団 任務
憲兵団 城壁内での警察業務と、王の近衛兵を担う
駐屯兵団 壁の守備と強化、および壁内地域の防衛を担う
調査兵団 唯一壁外に遠征し、王政府の拡大政策を担う

(『進撃の巨人 - Wikipedia』より抜粋)

 これはそのまま企業の組織構成にも似ている部分があるかもしれません。基本的には「役職」「ライン」「営業」といった対応となりますが、エンジニア内においてもマネ―ジャ/PMO、保守/開発、要素技術研究/エヴァンジェリストみたいな区分ができますし、営業も同じように分けられるでしょう。

 どれが偉いのか?を言いたいのではないのではなく、入れ子構造的に役割分担があるという話ではあるですが、自分自身に「調査兵団」であり続けたいというヒロイックシンドロームがなかったかと言えば嘘になります。

駐屯兵団として生きること

 しかし、現在の自分は「駐屯兵団」にいるのだと思うことがよくあります。昔の話や趣味の話はともかくとして、仕事が変わってからはオールドファッションな話ばかりです。変更作業が発生すると物凄く憂鬱ですし、「現状維持」を強硬に主張して、「やらない理由」で根回しするのにも慣れました。代わりにマニュアル整備や作業の定型化・標準化ばかりやっていました。

 『老害であることを自覚して生きていく - 太陽がまぶしかったから』は、「手を付けないのが最善手」という意識が強くなっている自身のパラダイムを疑っているからこそ書いたところがあります。実際問題として単体の効率化のために枯れたシステムへ手を加えるのは費用対効果的に割に合いません。しかし、私が来る何年も前から続いていた「運用で回避」が積み上がるほどに手間とリスクが増えていくのも事実であり、いつか壁が壊される日が来る事も分かっているのです。

「巨人」を作ってしまってから

 ここのところ痛感しているのが、「個々では大した事のない注意事項も、それが多くなると無理ゲーに変わる」という事です。とかく現代の産業構造は「巨人」を作り出しやすい側面があるのかもしれません。

 繰り返しますが、ひとつひとつは冷静になれば大した話ではないのです。それでも契約数が多くなるごとに暴力性を帯びてくるように思われます。短時間のうちに使える意志力の合計量は個々に決まっており、それを超える意志力を発揮するのは難しいと言われており、10個までなら冷静に対処できても100個になれば1個ぐらいバカになる瞬間がでてきてしまうのも仕方がないのです。

 殆どの場合は「無理ゲー」とまではいかないのですが、非常に疲れます。コンプライアンスやミス防止のためのチェックリストが多すぎれば形骸化していきますし、無意識化できる範囲には限りがあります。すると生産量に比べて再生産コストが掛かり過ぎるようになっていくのです。その上で夜中や休日に電話がかかってきたり、今から来いとか、早朝から待機みたいな事を連絡される「可能性がある」という状態が長期間続くだけでも、身体の常駐プロセスが緊張状態を維持させようとしてちゃんと休めないまま朦朧としてきます。

 朦朧としてきた時に大量の注意事項があると馬鹿になってしまう可能性が増えますし、新しい事をするのも難しくなっていきます。このスパイラルと向き合うのがなかなか難しいわけです。かと言って「抜本解決」だと思われる施策をしたことによってリスクを高める側面があるし、そのためのスキルや権限やリソースがあるわけでもありません。

全ての「補修」へ愛を

 少し大袈裟に書いた部分もありますが、そのような形で、壁の崩落に巻き込まれたり、その漠然とした不安の影を感じる事もあるとは思います。それは高速道路のトンネル崩落であったり、あの大災害にも通じることです。それでも最終的に出来る事はアイロ二ーを感じながらも壁を補修し続ける事に没入するしかないのかもしれません。

 駐屯兵団が行える寄与は僅かだというのも学びましたし、所詮はモブキャラとして、せいぜい壁を補修したり、ブドウ弾の腕を磨いておくことになるのでしょう。それは村上春樹のいう「文化的雪かき」のようでもあり、「猫の手を潰すような悪意」をほんの少しだけそらせるかもしれない可能性への希望です。調査兵団から外れた妄想戦士<ドリームソルジャー>としては、そんなアイロニカルなヒロイックシンドロームに踊らないとやっていられないのでしょう。

進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)

進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)

*1:実は「越える」の誤字だったのですが、それはそれで。