太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

三部けい『僕だけがいない街』〜小学生時代にバイツァ・ダストしながら明らかになっていく連続誘拐殺人事件の真相

僕だけがいない街(1) (角川コミックス・エース)

僕だけがいない街

 『僕だけがいない街(1) (角川コミックス・エース)』を4巻まで読んだ。自分の周りで事件が起きそうになると事件の原因が取り除かれるまで事件の直前の状態に巻き戻る(=タイムリープする)能力が勝手に発動してしまう主人公が18年前に体験した連続誘拐殺人事件の発生直前までタイムスリップされて事件の発生阻止を試みる展開。『マンガ大賞2022』において第2位になっている。

 主人公が開始時点で28歳なので、10歳の時点に巻き戻る。身体は子供、頭脳は大人、その名はという状態に巻き戻るわけで「タイムスリップ」ではなく「タイムリープ」である。小学生時代の違和感やトラウマと立ち向かいながら、母親から虐待されて孤立しているうちに誘拐殺人事件に巻き込まれた同級生や、仲良くしてくれていた近所のお兄さんが犯人に仕立て上げられた事件の結末変えようと絶望に足掻く。

タイムリープ物語

 この作品を読み進めて最初に思い描いたのは『バタフライ・エフェクト』である。

 この映画も非常に面白いのだけど、「ある場所での蝶の羽ばたきがそこから離れた場所の将来の天候に大きな影響を及ぼす」という名前の通り、因果の寄与が強すぎるぐらいに現状が簡単に変った。簡単に変わるけど、自分がいる限りはどうあっても彼女が不幸になるのは変わらないから・・・という未公開版エンディングが衝撃だった。

 これに対して『STEINS;GATE - PSVita』は「過程が変わったところで結末は簡単には変わらない」「結末を変えた事で幼馴染が死ぬ」という「カノン問題」のジレンマのなかで世界を欺くという話でこちらもアツい。タイムリープな物語は大好物である。

 『僕だけがいない街(1) (角川コミックス・エース)』については、3巻終了時点だと1度目のタイムリープが終わっただけなので、判断が難しいのだけど「現状も少しは変わる」が見て取れる演出がある。4巻から始まる2度目のタイムリープはいい感じに進んでるけど、ここからが難しいという展開になりそう。早く続きが読みたい。「僕だけがいない街」というタイトルは『バタフライ・エフェクト』の未公開エンディング的な展開を暗示してるんじゃないかと予想。

既存作品を踏まえてのスピーディな展開

 主人公の能力が『ジョジョの奇妙な冒険 第4部 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)』の吉良吉影の能力であるバイツァ・ダストに似ているというのが面白い。作者の三部けい荒木飛呂彦先生のアシスタントでジョジョも手伝っていたそう。オビにも荒木先生の推薦がある。ジョジョのラスボスは「時間」に関する能力というのが定番なのだけど、負けそうになると時が戻る能力は圧倒的であった。

 「小学生時代のひっかかりやノスタルジー」という観点だと『20世紀少年: ともだち (1) (ビッグコミックス)』も連想する。そんな感じで既存作品のよいところを取り入れつつ、スピーディな展開と伏線の巧みさがあって飽きさせないのでオススメ。