太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

アドベリフィケーション技術によってオワコン化していく炎上商法

photo by Libertinus

炎上のビジネス化

 インターネットやスマートフォンが大衆に普及しはじめた10年の間に、賛否両論の意見を故意に煽ることで、「こんなやつがいる!」「俺にもひとこと言わせろ」というシェアや言及を巻き起こして大きなアクセスを集める「炎上商法」や「炎上マーケティング」と呼ばれる手法が定着しました。

 そもそもの「炎上商法」は企業が故意または意図せずに賛否両論の炎上を巻き起こすことで、結果としての宣伝費をかけずに認知の拡大に繋がる現象を指していましたが、ニュースサイトや2chまとめサイトなどのメディア運営においては、アクセスした際に表示されるディスプレイ広告やクリック課金型の広告からの収益を目的にして意図的に引き起こされてきた側面があります。

 ディスプレイ広告やクリック課金型の広告からの収益はアクセス数に比例して増えていく傾向が強いため、インターネットメディアが乱立している現状においては、どんな手段を用いてでもアテンション(関心)を集めるべきだという姿勢で、確信的に炎上を狙うメディアも少なくありません。

不愉快な記事と一緒に表示される広告はブランドに悪影響

 炎上商法の一般化によって困るのは広告主です。メディアが大きなアクセスを集めて表示回数やクリック回数が増えても、不愉快なコンテンツとともに表示される広告が購買に繋がる可能性は低いですし、「そんなメディアに広告を出す会社」としてブランドの毀損にも繋がりかねません。以下のような炎上商法のメリットとデメリットの対比において、広告主サイドが一方的な損害を被りやすいスキームになっていました。

立場 メリット デメリット
メディア アクセスが増える
広告収入が増える
(覚悟の上の悪評)
広告主 広告表示回数が増える
広告クリック数が増える
購買に繋がりにくい広告消費
ブランドの毀損

 現在のインターネット広告においては、多数のメディアに対して広告を配信するためのアドネットワークという仕組みが用いられており、その一方でリターゲティング広告などの個人追跡型広告が主力商品となっているため、広告が表示されるメディアやコンテンツの性質への精査が十分になされてこなかった経緯があります。「枠から人へ」の広告配信と呼ばれるものです。

 しかながら、2chまとめサイトや違法ダウンロードサイトなど、自社ブランドに悪影響を及ぼしかねない広告枠への問題意識や意図的な炎上商法によって広告効果以上に広告費が浪費されてしまった経緯もあって、昨今ではブランド毀損のリスクを減らすための「ブランドセーフティ広告」のための仕組みが要請されてきました。少々いき過ぎた「枠から人へ」という変化は「枠も人も大切」という考え方に揺り戻してきています。

ブランドセーフティ広告を実現する仕組み

 ブランドセーフティな広告を実現するために考えられる方式は以下の通りです。

方式 概要
ホワイトリスト方式 あらかじめ指定したメディアに対してのみ配信
ブラックリスト方式 あらかじめ指定したメディアを除いて配信
リスク自動判別方式 テキストや画像を分析して配信するかを自動判定

 もっとも分かりやすいのはホワイトリスト方式です。あらかじめ指定した信頼できるメディアに対してのみの広告配信を行うことでランドを毀損する可能性を最小限にします。電通ではGoogleの利用しているアドネットワークのなかから主要メディア100社にのみに配信を行うサービスを開始しました。

 電通は米グーグルのシステムを使い、企業が信頼性の高いサイトに限ってネット広告を掲載できるサービスを月内にも始める。グーグルの広告配信システムを使う200万社以上の中から、主要メディアや大手ネット企業など約100社を選別する。企業が安心して広告を出せるようにする。

 しかしながら、枠を小さく限定すれば広告料金が高騰しますし、配信ボリュームも確保しにくくなるため大手広告主でなければ難しい仕組みです。

 ブラックリスト方式は、ホワイトリスト方式とは逆に指定したメディアへの広告出稿を停止させます。しかしながら、乱立するインターネットメディアをあらかじめ精査しておくのは不可能に近い話ですし、炎上に対してはリアルタイムな対応も重要となるため、よほど悪質なメディア以外に適用されることは少ないと思われます。

 ホワイトリスト方式では費用対効果や配信ボリュームや確保できず、ブラックリスト方式では運用が煩雑すぎるといった既知の課題に対応するため、メディアが持つリスクを自動的に判別するための技術が開発されてきました。それが「アドベリフィケーション技術」です。

アドベリフィケーション技術の普及でオワコン化していく炎上商法

 「アドベリフィケーション」とは適切な媒体への広告配信を行うことで広告主のブランド毀損を最小限にするための概念であり、コンテンツ内の画像やテキストを解析して、そのサイトのもっている潜在リスクを自動判定して広告出稿のための入札を回避します。

 Yahoo! JAPANでは『Yahoo! JAPAN、アドベリフィケーション機能をYahoo!プレミアムDSPに導入 / プレスルーム - ヤフー株式会社』のように、米国の大手アドベリフィケーション開発会社のインテグラル・アド・サイエンス社と提携し、これまでは目視で行われてきた不適切コンテンツへのチェックを自動化していますし、『はてな、フリークアウトとアドベリフィケーション機能を共同開発:MarkeZine(マーケジン)』のように個人ブログやソーシャルブックマーク内における広告掲載もアドベリフィケーションテクノロジーの視野に入ってきました。

 アドベリフィケーションテクノロジーが普及するとともに、目視によるブラックリストからは漏れてしまいがちだった中小の個人メディア内のコンテンツについても「広告主のブランドを毀損しえる」という自動判定がなされるケースが増えていくものと思われます。適切な広告主からの広告出稿が停止されたメディアは広告枠が余ってしまうため、ブランドの毀損をものともしない怪しい広告が配信されたり、非常に低単価な広告しか出稿されないといった事態を引き起こしかねません。

 このため。アドベリフィケーション技術が中小のメディアにまで普及していく過程で、炎上商法自体がオワコン(おわったコンテンツ)化していく可能性が高いとみています。低品質なメディアも怪しい広告とともに生き残っていくのでしょうが、そういう人だけが参加するメディアは「ビジネスとしての炎上」も難しくなっていきます。

誤クリック誘発や身内やBOTの不正クリックを無効化する技術

 ここまではブランドを毀損する恐れのあるメディアやコンテンツを排除する仕組みについて、紹介してきましたが、特に2chまとめサイトや個人メディアにおいては、誤クリックや誤タップを誘発するようなデザインがとれることが多くあり、イラッとした経験もあるのではないでしょうか。

 誤クリックによる不快感を抱きながらランディングページに流入した場合、本当に悪いのはメディア運営者なのにもかかわらず、広告主のブランドを毀損しかねないとい観点からすれば、誤クリックユーザーの検知もブランドセーフティ広告の一環と見なすこともできます。それに加えて、メディア運営の関係者による身内クリックやボットによる自動クリックも広告費の無駄な浪費を誘発しています。

 例えばYahoo!においては「無効クリック」を以下のように定義し、「無効クリック」もしくは「無効な疑いのあるクリック」と自動判定されたクリックを広告主への課金対象から外す仕組みを作っています。

弊社では、ユーザーの正常なサイト訪問や購買につながらないクリック、ユーザーによる誤クリック、または悪意があると判断されるクリック等を無効クリックとみなしています。

 広告を配信するプラットフォームにおいては、「無効クリック率の高いメディア」を把握しており、こちらについても広告出稿の自動停止などの措置がとられていく可能性があるものと思われます。『ネット広告関係者必見「デジタル広告詐欺の実態:ボットの現状」(全57ページ)を日本語で全公開 | 編集長ブログ―安田英久 | Web担当者Forum』などでも報告されている通り、BOTによる広告費詐取が大きな問題となっています。Googleも『不正な操作による収益の減額を確認する - AdSense ヘルプ』のような取り組みをしています。

なんのために広告費が支払われているのかに立ち返る

 炎上商法による強引な広告表示の増加にせよ、誤クリック誘発や不正クリックにせよ、広告主の立場から見れば、ブランド毀損のリスクが高まる広告配信や、成果につながらない広告配信は広告費用を騙し取られているようなものです。これまでは個々のメディアからすれば小さな規模であり、目視での対応にも限界がありましたが、アドベリフィケーション技術の進歩と普及が行われた暁には、そのようなメディアへの制裁的な措置が取られていくものと思われます。

 メディアを運営する側としても、いま一度、なんのために広告費が支払われているのかに立ち返って、健全なメディアを運営していくことが求められていくのではないでしょうか。まだ炎上商法で消耗しているの?

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