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太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

『黒い家』感想〜サイコパスにとっての保険金殺人の位置付けとは?

サブカル サブカル-映画

黒い家に住まう奇妙な家族の物語

 ここのところでAmazonプライムで90年台後半〜ゼロ年代に流行ったジャパニーズホラーを観ることが多い。レンタルビデオ屋で取り寄せ対象になっている作品も無料で観られるのがありがたい。

「この人間には心がない」 現代人の心の闇をえぐり出す 傑作リアル・サイコ・サスペンス!この恐怖体験、最期まで耐えられるか!? 若槻は保険の営業のため訪れた菰田重徳の家で子供が首を吊った状態で死亡しているのを発見してしまう。事件の疑いが濃厚な事案であったことに加え、菰田家には以前にも自傷とも疑われる不可解な保険金請求があったことから、若槻の会社では保険金の支払いを保留していたが重徳は執拗に支払いを求める。疑念を抱いた若槻は、一連の事件の首謀者を重徳と推測、妻の幸子に注意を促す匿名の手紙を送るのだが…。

黒い家

黒い家

 貴志祐介の『黒い家 (角川ホラー文庫)』を原作した映画。和歌山ヒ素カレー事件。監督は森田芳光。すこし奇妙な家族映画の人というイメージがあるのだけど、『黒い家』も奇妙な家族映画と言えば家族映画か。後に起こる和歌山毒物カレー事件との類似が話題になった。

この人間には心がない

 『リング』のヒットに続いて作られた角川ホラー映画だからか、導入部の類似を感じる。保険会社の窓口業務の理不尽さと胃の痛さ。保険金のために自分の指を切る「指狩り族」や不審な保険金について契約解除を交渉する「潰し屋」、ノルマ優先の営業や11月の保険月間などから不審な契約も通りやすい業界事情など、原作者の貴志祐介は保険会社に8年間も勤めており、そのようなことを実際に体験・見聞してきたのであろうことが伺える。

30歳の時、同僚の事故死をきっかけに自分の人生を考え、8年間勤めた朝日生命保険を退職し、執筆・投稿活動に専念する。鈴木光司『リング』を読み、「ホラーというのは、ミステリの文脈でまったく新しいものが書ける」と気づいたという。

貴志祐介 - Wikipedia

 大竹しのぶ演ずる妻から「自殺でも保険金はおりるのか?」と電話で問い合わされ、営業のために呼ばれた家で「息子の自殺」を見せつける。息子の保険金請求をし続ける西村雅彦演ずる夫に「ギーガチャ」という効果音がつくことで「ロボット=心のない」と思わせるようなわざとらしい演出があったり、必然性のないBGMと音声のボリュームバランスがあってなくて台詞が聞き取りづらいなど、演出的には難が目立つのだけど、異様な虚乳巨乳と奇矯さを持ち合わせた大竹しのぶの怪演は素晴らしい。

サイコパスにとっての保険金殺人の位置付け

 大竹しのぶが家に忍び込むシーンや、夫の身体を切断しながら保険金のことばかり気にするシーンなど、「サイコパスにとって位置付けられる保険金殺人」の理路が恐怖の源泉となっている。こんな心理テストがある。

夫を無くした子持ちの未亡人が夫の葬式にかっこいい男が参列したのを発見した
未亡人は自分の子供を殺した

なぜでしょう?

 「男を口説くのに子供が邪魔になるから」という迂遠な事を考える人はまぁ凡人だ。サイコパスであれば「息子の葬式で、また男と会えるから」と即答するという。男を探す手段なんていくらでもあるのに「身内が死ぬ→葬式でかっこいい男がくる」という手段と期待の単純な接続回路。

 この映画でも大竹しのぶは「身内を殺傷する→保険金がもらえる」という単純な接続回路を繰り返しているのに過ぎない。「不審なことが続けば怪しまれる」とか「家族が死ねば悲しい」といった付随的な情緒や状況判断が抜け落ちた昆虫的な理路が呼び起こす恐怖心。後半はターミネーターのごとく強靭化した大竹しのぶが物理攻撃をしかけてきたり、主人公に襲いながら「乳しゃぶれ〜」と吹き替えヌードになるなど、そういうの要らないから!と思いつつも、心がない人間と保険金殺人・傷害が織りなす奇妙な家族の物語として楽しめた。

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