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太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

『オカルト』再見〜江野しぐさに殺されがちなオカルト要素全部のせに注目

サブカル サブカル-映画

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何度目かの『オカルト』再視聴

 『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』でニコ生を中心に一世を風靡している白石監督だけど、僕自身が一番好きな作品は『オカルト』である。既になんどもなんども観ているし、新文芸坐でのオールナイト『白石監督ユニバース』の目玉作品でもあった。

 ともかく、僕は江野くんに憧れて口ひげを伸ばしてみたり、渋谷駅前交差点で江野くんごっこをしたり、サムラートでインドカレーを食べたり、100均でぽーんぽーんとしたりと、徐々に狂ってきていた。オカルト狂いになっているのは『ネットラジオ BS@もてもてラジ袋 | IT時代をサバイブする新型教養番組』のパーソナリティ二人も同じで、唐突に始まるオカルトごっこを聴いてまた観たくなってしまう悪循環。

2005年、ある観光地で起きた無差別殺人。犯行直後に犯人が海に飛び降り自殺。白石晃士は事件の被害者である青年・江野祥平に出会い、奇妙な証言を聞き出すが…。「口裂け女」の白石晃士監督が放つ、フェイクメンタリーホラー。

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『オカルト』は序盤の怪奇オムニバスも面白い

 全体論は以前に書いたので、今回は細部について注目していく。まずはパッケージ内の言葉と描画の対応を確認したい。江野くんや地獄だぞおじさんの話はいくらでもできても、ファン同士であっても「ドッペルゲンガーなんてでてきたっけ?」となりがちなので、前半のオカルトオムニバス要素についても注目したい。

 最初に妙ヶ先で起こった通り魔殺人事件を収めたビデオがあって、序盤は現場に居合わせた撮影者や被害者遺族や巻き込まれて重症を負った江野くんへのインタビューがされていく。死亡者が二人いて重傷者は江野くんだけ。導かれて現場にいった証言が続くことで、最初の通り魔事件そのものはパッケージにある「無差別殺人」ではなかったという伏線が作られつつ、おかしな話が進んでいく。

パッケージのオカルト要素は序盤だけで結構回収されている

 「予知夢」と「あひらわま」は被害者遺族の母親へのインタビューだ。序盤はあくまで「通り魔殺人事件」のドキュメンタリーのテイで進んでいくのだけど、夢の中に殺された娘がでてきた話を延々としていて、「娘の口がこーんくらいに大きくなって」「あれはねー」と穏やかな顔で笑うのが狂気を孕んでいる。「あひらわま」という言葉は「おひるやま」として後半に回収される。

 「ドッペルゲンガー」はもうひとりの被害者の恋人の話だ。死んだ彼女(右田さん=ミギー)が勝手に写真にうつりこんでいく話をしている。ちなみに、この恋人役のひとは工藤Dの父親であり、バチアタリ暴力人間の被害者であり、ノロイのフェイクビデオの出演者でもあって白石監督スターシステムにおける猿田やハムエッグのような役割を担っている。ミギーは『寄生獣』であろう。

 2009年の作品であり、秋葉原の通り魔殺人やネットカフェ難民などの社会情勢が取り入れられている。そこに巻き込まれて重症を負った被害者が江野くん(30歳)。既に頭頂部が薄い。『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章』や『殺人ワークショップ』を観てからのループなので余計に江野くんへの視線が注がれるのだけど、序盤はあくまで登場人物のひとりである。

結論から言えば、彼は「江野祥平」であり、前作で「異界」に消えた工藤DとAD市川を奪還するために「この世でゆうたらやったらあかんこと」をカメラマン田代(白石監督本人)との二人で続ける『オカルト』の後日譚のような流れになっていた。

 「犯人」の友人や父親へのインタビューもある。友人が「UFO」を回収。江野くんも病院でUFOを目撃している。犯人の父親が息子についていた特殊な形状のアザを「神様」のサインであると言っている。江野くんは、このアザと同じ形の傷をつけられて「次はキミの番だからね」と言われる。

よみがえれ!江野しぐさ

 この辺りから急激に江野くんフォーカスが移っていくのだけど、江野くんが事務所来る直前にネットカフェ難民の雑談をしていたりと、通り魔殺人事件が徐々にどうでもよくなっていることを感じさせる。秋葉原の通り魔殺人やネットカフェ難民などの社会情勢が取り入れられているとはいえ、作品世界内における心的結合は特にない。

 事件以後、江野くんに奇跡が起こるようになったというので「奇跡をカメラにおさめて」と依頼したり、「すごい映像が取れますよ!」となったり、通り魔殺人事件のルポタージュ取材がナチュラルにネカフェ難民ノンフィクションや心霊ビデオの撮影に変わっていく流れが考えてみれば強引だ。当初の企画からズレすぎでしょ。江野くんへの密着取材は、文字通り奇跡の連続だ。心霊現象というよりも、「江野しぐさ」とでも言うべき行動が面白すぎる。

  • 100円ショップではスナック菓子を手でぽーんぽーんとやって重さを確認。メーカーのグラム表記は信じない。
  • カップ焼きそばをたべながら「野菜もはいっているやけどね」
  • すいません。100円あります? (貸してと言わずに支払いに使う)
  • タバコもらっていいですか(3回)
  • 貯金があっても「お金がない」と言ってメガマフィンを奢ってもらう
  • 焼肉屋でオゴリと分かった途端に大量に頼んだ上に初回から「サムゲタン」(食事シーンにサムゲタンがうつりこんでない)
  • ADのイチゴちゃんをちょっと狙いつつ、ダメだと分かった途端に「あのブス!」
  • タメ口でいこうよ! 江野くんで来てよ
  • 福岡はOKだけど、東京はアカン(俺ら西やん)

 江野くんが事務所に泊まるときには寝袋を使っている。「ここには住んでいない」という台詞もあるし、布団がない方がリアルなのか。ちなみに、江野くんが寝泊まりしている新宿の事務所は「コワすぎ!」の事務所と多分同じだ。iMacが懐かしい。

 ここでいう「江野くんできてよ」が『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章』で回収された時には結構マジ泣きしていた。

もちろん、田代には「白石くん」としての記憶がないし、特に思い出したりもしないのだけど、思わず「白石くん」と呼んだり、「敬語じゃよそよそしい」と言ったりして、世界が終わるような極限状況のなかでも「あの頃」を再現しようと不器用な試みをしていくのが切ない。

「オカルト全部のせ」な部分にも注目したい

 ちなみに、ここまででたった35分。無限に語れる濃厚さ。ほかにも多数の江野しぐさがあるのだけど、それらが強烈過ぎて当初の通り魔殺人事件やオカルト要素がどうでもよくなってきてしまう部分も正直あって、「ドッペルゲンガーなんて出てきた?」となってしまうのも仕方がない。

 とはいえ、後半にも『にこたま』の渡辺ペコが自動書記をしたり、『回路』の黒沢清の談話がクトゥルフ神話を彷彿とさせる九頭呂岩(クトロイワ)というオーパーツや古代文字に関わったりと、パッケージに散りばめられた「オカルト全部のせ」な部分にも注目したい。本当に面白い映画って何回観ても新しい発見があるので、1回目だけで全てを分かった気になるのはすごく勿体無いのだと思う。やっぱ最高だわ。

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