太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

オタサーの姫に「ありがとう」と言わせたら童貞騎士失格なのであります

photo by woodleywonderworks

嫁がありがとうを言わない

細かい話をするとキリがないが、客商売をしている自分はどちらかというと人の機微に気づきやすくできるだけ相手の状態を感じ取って先回りの行動を心がけているつもりだ
それなのに嫁はいつの間にかストレスをためては、あなたは何もしてくれないと言ってくるのだ

 読みました〜。「いいひと戦略」を間違っちゃった感じだと思うのだけど、「ありがとう」について思う所を書きます。僕自身も半分はお客様ありきの商売をしているので、「雑談」をしにいく中でも顔色を察したり、相手が本当に求めている事を読み取って動くようにしていかないと評価されないところがあります。

 とはいえ、こちらも商売です。あまりに自然にうまくいっているように感じられると存在意義を問われる事にもなりますので、敢えて持ち帰った上で「この前おっしゃってた◯◯を実現する方法を考えたのですが、お時間をいただけませんか?」みたいな感じで分かりやすく「仕事をしているアピール」をする事もあります。

 雑談の中でジャストアイデアが消費されてしまえば、そこで終わってしまうわけで、「ありがとう」と言いやすくする、というか対価を支払ってもらうためにも「儀式」が必要になるわけですね。

姫に「ありがとう」と言わせてしまったら騎士失格

 だけど、この考え方を人間関係にまで適応してはいけないと常々と思っています。少しでも心からではない「ありがとう」を言わせてしまったということは、自分の中の押し付けがましさとか、見返りを求めている気持ちが透けていたのかもしれないと、むしろ反省材料にしています。

 気を使わせてしまったら「寛ぎ」は達成できていませんし、罪悪感とか、債務感のようなものでつながっている関係は互いに辛いだけです。苛々したり、暗い気持ちになるなら一緒にいる必要もないと思うのですが、僕自身にも「これ見よがし」が残っていると反省する事が多々あります。例えば当たり前に早く起きて片付けたり、朝食を作っただけでも、嫌味に感じられるかもしれない文脈がある事を理解できていませんでした。

 そうではなくて、「一緒にいると何か楽しかったな」「あ、いないと寂しいかも」みたいなものを積み重ねていくことで、関係性は育まれていくものではないでしょうか。現実的には聖人君子を保つ事はできないので、嫉妬深い所もあるし、テンパッてしまう事もあるのだけど、制御可能な領域をなんとか増やしていきたいという気持ちはあります。騎士としてはね。

相手の気持ちになったつもりになるマンは害悪

嫁はいつの間にかストレスをためては、あなたは何もしてくれないと言ってくるのだ

 その程度のことで「自分がやってあげてる」とアピールして「ありがとう」と言わざるをえない状況に追い込んでいたら、ストレスを貯めこんで意固地になるのもわかります。そもそも相手のニーズやウォンツを全く把握していないように思われます。

先日嫁の誕生日だったのだがどうやら体調が良くないらしい
なにか食べたいものがあるか聞いても、体調が悪いから
スパークリング買ってこようかと聞いても、今は胃が痛いから

 体調が悪い時に必要なのはそういう事ではないでしょう。こんな状態でも無理な笑顔を作らせた事を根拠にして「甲斐甲斐しい俺」を誤認識させるよりも幾分か誠実とすら思います。「アカンやつ」は自分の周りのフィードバック回路を壊すように動きがちなのです。

 他者への寄与をもってして自身の存在価値の根拠にしようと無意識に考えていると、得てしてハラスメントになっていきます。そして条理によってではなく仕事上の権力によって一時的に納得したフリをされるようになると、客観的な「正しさ」が不定値のまま、「正しいこと」として自身にフィードバックされて、その観念をさらに固定化します。

 相手の立場に立つ事までは出来ても、思考回路をエミュレートする発想がないため、「僕が君の立場なら絶対こうするのにな」という頭の悪いことを言いがちでもあります。結局のところで相手の気持ちと正面から向き合えていないわけですね。「相手の気持ちになって」という自己申告は無意味どころか、逆の意味に取れてしまいます。

「介護者主導型介護」という地獄を回避するために

 以上のような関係性を老年まで続けていると、結果として「介護者主導型介護」という形で問題になっていくことが指摘されています。これは介護に限らず、仕事や病気や子育ての問題のすべてにあてはまります。

 妻が要介護状態になった場合、夫はプロジェクトマネジメントの要領で的確に介護という仕事をこなす事が多いと言われています。しかし、これは「介護者主導型介護」に変容する事が多く、「介護される妻の感情」が無視される事になる場合が多いと本書は指摘します。

(中略)

 「自分のベストプラクティス」を相手の状態や反応を見ずに推し進めてしまう事があって、それをされた側は凄く迷惑でありながらも、言い出しにくい状態になってしまいます。言い出されないから喜んでると思ってさらに進めてしまうスパイラルです。自称「家事や子育てが出来る」の痛々しさもそこにあります。

 なにかしらの負い目を作って無理に笑顔を作ったり、「ありがとう」と言うようになってしまうと、どんどん相手との関係性や、自分自身の方法論が壊れていきますし、面従腹背をされながら、不満ばかりが堆積すると空気すら淀んでいくように感じます。僕には人の心というものが分からないので、フィードバック回路が狂ってしまうと同じような失敗をし続ける事になります。

 そんなわけで、間違ったアプローチについては嫌な顔をしてほしいし、負い目混じりの「ありがとう」を言ってほしくもありません。その時は少し傷付くかもしれないけれど、そうでないと低空飛行しか出来なくなってしまうし、もっと言えば狂ってしまう可能性すらあると考えています。相手がそれを求めているのかについては要相談でしょうか。姫に「ありがとう」と言わせてしまったら騎士失格なのであります。

おこぼれ姫と円卓の騎士 (ビーズログ文庫)

おこぼれ姫と円卓の騎士 (ビーズログ文庫)

関連記事