太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

ベランダ野宿と「安・近・短」の悦楽

photo by namtaf

その「おこだわり」、オレにもくれよ!!

 赤羽の変な人々を描いたフェイクドキュメンタリー『山田孝之の東京都北区赤羽』の原作となった『東京都北区赤羽』の作者である清野とおるの描いたインタビュー漫画が面白かった。相変わらず変な人々の変なこだわりを書くのが巧い。

『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』ーーそれは日常の退屈と喜びを描いたノンフィクション漫画の白眉である。著者の清野は、あたたかい眼差しで我々の生活を見つめ、日常に潜む「おこだわり」を抽出する。「僕は貧乏な人は格好がいいと思う」と清貧に生きる人々を賛歌したのは、劇作家の山田太一だったか。清野もまた、ツナ缶、ポテトサラダ、白湯、さけるチーズなど、ゼニのかからぬ喜びを賛歌して余りない。実にタマラン。

その「おこだわり」、俺にもくれよ!!(1) (ワイドKC モーニング)

その「おこだわり」、俺にもくれよ!!(1) (ワイドKC モーニング)

 なかでも、僕の心に響いたのは「ベランダ野宿」の男である。ベランダでコーヒーを飲んだり、家庭菜園をする「べランド」(造語)をしていくうちに、週末のたびにベランダ旅行に繰り出して、ベランダ野宿をするようになったという話だ。

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 この嬉しそうな顔! キャンプ感覚で色々な道具を揃えたり、起きた時の「あ……そっか、ベランダだ〜」という安心感もよくて、心が踊る。おもわず作者が「あいつらは勝手に楽しんでてズルい!」と言ってしまうのにも共感する。

ベランダで積極的野宿

 家賃4万円の暖房が壊れたボロアパートに暮らしていても、寝袋があれば案外快適になるという生活をしていたのだけど、これは「止むに止まれず事情」というやつであった。敢えて寝袋で寝ていたという話ではない。

 オルタナティブなライフスタイルには、「積極的に選びとった」のか、「選ばざるをえなかった」のかの違いがあって、そこに対する自己欺瞞はあまりよろしくないと感じている。社畜でも、ノマドでも、ミニマリストでも。

本書によれば野宿は二通りある。すなわち、消極的野宿と積極的野宿である。先に例として挙げた終電を逃したりして仕方なく野宿を行う場合を消極的野宿とし、旅行などにおいて最初から野宿を予定に組み込んでおく野宿を積極的野宿としている。

ベランダ野宿と「安・近・短」の悦楽

 今回のベランダ野宿は「積極的野宿」に類する。誰からも求められていないし、やらなくてもよいのだけど、どうしても非日常化をしたくなってしまうジャンキーのようなものだ。それでいて公園野宿や道路野宿に比べたら格段に安全であるし、「ウチ側」の安心感にも包まれる。

 近年の旅行業界では「安・近・短」と呼ばれる「費用が安くて、距離が近くて、期間が短い」旅行や行楽が好まれることが多いという。こんなところまでコスパ至上主義だ。でも、そう考えるとベランダ野宿って最高の「安・近・短」と非日常感が両立できていて、なんだかすごくズルい気がしてくる。その「おこだわり」、俺にもくれよ!!

その「おこだわり」、俺にもくれよ!!(1) (ワイドKC モーニング)

その「おこだわり」、俺にもくれよ!!(1) (ワイドKC モーニング)