太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

「渋谷駅前交差点自爆テロ事件」の深層を淡々と抉りだすモキュメンタリー~白石晃士『オカルト』

オカルト [DVD]

渋谷駅前交差点爆弾テロ事件のモキュメンタリー

 本作は派遣社員による渋谷駅前交差点爆弾テロ事件に至る経緯を描いたモキュメンタリーである。「モキュメンタリー」とはドキュメンタリー風の映像で虚構を描いていく手法で『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『クローバーフィールド』などが有名である。よかった。渋谷駅前交差点自爆テロ事件なんてなかったんだね。

モキュメンタリー(英: Mockumentary)は、映画やテレビ番組のジャンルの1つで、架空の人物や団体、虚構の事件や出来事に基づいて作られるドキュメンタリー風表現手法である。モキュメンタリーは「モック(wikt:mock)」と、「ドキュメンタリー」のかばん語であり、「モックメンタリー」「モック・ドキュメンタリー」ともいう。また、「フェイクドキュメンタリー」と呼ばれる場合もある。

モキュメンタリー - Wikipedia

 白石晃士監督は、モキュメンタリー作品を多く撮っていて、独特の味わいがある。特にこの作品は「ネカフェ難民への密着ドキュメンタリー」のような映像に『本当にあった呪いのビデオ』のような「お分かりいただけただろうか」が挟まれて狂気の展開になっていくのが新しい。

 グロくもないし、幽霊やゾンビに何かをされるわけでもないので「Z級ホラーだろwww」って人にほど観て欲しい。本当にタイトルとパッケージで損をしていると思うのだけど。

撮る側と撮られる側の奇妙な友情


予告編 :『オカルト』/ Trailer :『occult』 - YouTube

 事件の主犯となった江野くんは、妙ヶ崎で起きた通り魔連続殺人事件に巻き込まれて紋章型の傷を付けられており、それ以来不思議な声を聞いたり、超常現象に巻き込まれやすくなっていく。「超常現象」といってもポルターガイストとか心霊映像にすぎなくて、江野くんの関西弁で卑屈なのに図々しいキャラクターがなんともリアルで超常現象よりも怖いという塩梅。

 派遣元に電話をかけるも仕事がなくて、欠員連絡が来るまでマクドナルドでひたすら待機してたり、焼肉屋で気が大きくなって女性社員に説教を始めたりするどうしようもなさが描かれる反面、「神の声」や「奇跡」による無根拠な優越感が隠せない。まさに日常雑感系アニメ『おま★えら』。この辺りの丹念な描写は秋葉原の事件の影響もあると思われる。

おっさんふたりのデートムービーのようであり

 そんな彼が唯一心を許すのが、密着取材をしているカメラマン兼監督の白石晃士(本人!)。取材対象の心を開かせるための寄り添いを続けるうちに、二人で「奇跡」を経験し、江野くんが聞いていた「自爆殺戮渋谷交差点」という声に従って渋谷駅前交差点での自爆テロをするという「神の国に行くための儀式」をカメラに収める事を決意する。江野くんが美少女だったら絵になるけど冴えないおっさんである。汚いまどマギ。

 そこから二人で爆弾の材料を買い込んだり、映画を見たり、カレー屋に行ったりと「江野くん」「白石くん」と呼び合いながら男同士のデートシーンを延々と流されるシュールな展開。爆弾作成中の作業場のマンションに女性社員が忘れ物を取りに戻ってきた時など、「浮気現場に踏み込まれた」かのような慌てようで爆笑した。テロを行う直前に江野くんが白石くんに感謝しながら、ネットカフェで借りた100円を返そうとするシーンに謎の感動をしている自分に気づく。アツい友情。

不穏さ演出

 爆弾の材料を買い込んだ帰り道に、ちょっとアレな感じの人からいきなり「地獄だぞ!」と叫ばれ、荷物を強引に奪われそうになる。「異なる神の声を聞いた選ばれし者」同士の代理戦争が起こっているのだろうけど、いい大人同士で荷物を奪い合って地味な喧嘩を淡々と撮っているのが、逆にゾクゾクとさせる。

 画面を覆い尽くすカラスだったり、クトゥルフ神話オマージュ要素を出すための山登り中の不協和音などの不穏さ演出もある。カラスのシーンについては、白石監督自身が「カラスを呼ぶ方法がある」とコメントしてたり、機材協力にChim↑Pomの名前が挙がっていたので、恐らく『BLACK OF DEATH』に使われたカラス寄せが使われたものと思われる。


BLACK OF DEATH/Chim↑Pom - YouTube

 二人で観た映画にもボカシがかかっていたけど『インディ・ジョーンズ/ クリスタル・スカルの王国 スペシャルコレクターズ・エディション【2枚組】 [Blu-ray]』であろう。あの映画のひどいオチすら「神の導き」に見えて自爆テロを行う確信を強めるというアノミー状態。おそらく仕込みではないタクシーの運転手とも「渋谷駅でテロとか起こったら大変ですよねぇ」と世話話をしたり。アドリブ一発録りで撮ったであろう狂った会話シーンが「これは演技」っていうメタメッセージを感じさせないようなドキュメンタリー風映像の中で淡々と積み上がる。

ラストの掟破り(ネタバレあり)

 ラストシーンについては是非観て頂きたいのだけど、モキュメンタリーの掟を原理的に破っていて面白かった。「ヒント:バイオぶどうサワー」。つまり、一応は「本当にあった怖い話」のテイだったのに過去形ですらなくなっていくのだ。もはや「モキュメンタリー」という手法自体が過剰にパロディ化されて、「掟破り」のコンテキストを作るための道具になったのかもしれないとも感じられる。そもそも「◯◯村連続殺人事件」なら信じる余地があったはずなのに、「渋谷駅前交差点自爆テロ事件が現実には発生していない」がバレバレなのは想定済みだから確信犯であろう。

 その辺の演出も低予算の中ですごく巧い。とりたててグロいシーンがあるわけでもないし、幽霊とかモンスターが直接的に何かをするわけではなくて、「撮る者/撮られる者」を意識しながらも、深遠なる狂気に巻き込まれて自爆テロに向かう派遣社員と、それを淡々と撮り続ける映画監督を描き出すのは今までに感じた事のない恐怖であった。僕自身も最初は「Z級www」なんて言っていたし、ハマれない人には全くハマれないだろうけど、一部の人にはすごく刺さるのではないかと思う。ピンときた人は食わず嫌いをせずに観て頂ければ幸いである。

オカルト [DVD]

オカルト [DVD]

入会日から30日間無料でお試し!オンラインDVD&CDレンタル!

オカルト再び

その後の江野くん