太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

システム自炊法による栄養摂取アーキテクチャの構築

システム自炊法―シングル・ライフの健康は、こう守る (中公文庫)

腹一杯食べながらの栄養不良

 「腹一杯食べながらの栄養不良」。単身赴任者は南洋の島々に送られた兵士のようなものであると著者は表現します。エターナル・フォース・ボッチ(孤独に死ぬ)の呪いを掛けれた私はさしずめ神風特攻隊のようなものです。本書が指摘する単身赴任や多忙をきっかけに食生活が乱れて体調を崩すというあるある話に耳が痛いです。

 多忙になったり、通勤時間が増えたり、人間関係等の問題があったりすると物理的な時間制約や気力減退から外食が多くなり、ストレス解消で好きなものだけを食べてしまったり、下手をすればスナック菓子と酒だけで済ましてしまう事もでてきてしまいます。当然太るし、栄養素も足りません。『ナリワイをつくる:人生を盗まれない働き方』ではベンチャー企業で多忙な生活をして毎日ハーゲンダッツを食べていたら肌荒れになって「これはあかん」と思ったみたいな話が出てきますが、まさにです。

 『エンタープライズとしての<私> とステークホルダとしての<私> - 太陽がまぶしかったから』では、「エンタープライズとしての<私>」と「ステークホルダとしての<私>」の二項対立として自身の性格を表現しましたが、ブラックな取引先が増えている実感があると、せめて㈲池田商事としては、出来る限り従業員の要求を聴いてあげようとしてしまうものですが、それが根治治療になるとは限らず、むしろ残念な結果をもたらしがちとなってしまいます。

 『医者に寝落ちや移動中のスマートフォンを禁止された話 - 太陽がまぶしかったから』はステークホルダとしての<私>の欲望に素直に従わざるをえない状況と、それを許しすぎた末路です。この図には出てきませんが、食生活の乱れも寄与してきたものと思われます。

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 この飽食の時代において、栄養不良は飢えによってもたらされるものではありません。身体組織の発達に必要な栄養素が足りなかったり、処理能力が備わっていない食品を取り込んで代謝システムに負担を掛け続ける事によってもたらされてしまうわけです。これは食料選択の自由の元で発生する職業選択の自由、人間関係の自由による多忙やストレスに晒された状況が重なると顕著になっていきます。心を満たす食事は必ずしも身体を満たしてはくれません。

生き残るためのアーキテクチャ

 とはいえ、栄養不良のままカロリーだけを摂取し続けても人はそう簡単には死にません。酒でもカロリーは補充できるのであって、それはホームレスの生態です。身体中を蝕まれながらも意外に死にはしないのですが、慢性的な頭痛、腹痛、腰痛、歯痛、肩凝り、自律神経失調といった諸症状に悩まされて満足に思考もできない身体となります。それは辛うじて動作可能なだけのゾンビなのではないかという話です。死んではいないが、生きてもいない。ぷよクエをやり続けるゾンビです。

 恥ずかしながら過去の私には徹夜、偏食、暴飲暴食をものともしない不健康体力のような信仰がありました。「スーパーファイヤープロレスリング」でいうところの流血するとむしろ体力回復速度が上がるみたいな「厨二病設定」です。しかし三十路も超えてみると「ごらんの有様だよ」という塩梅です。まさにゾンビ。「http://bulldra.hatenablog.com/entry/2013/05/29/225855」の言葉を借りれば「腹一杯食べながら栄養不良となって生命力を削る不断の努力をしていた」という事です。

 とはいえ「バランスのよい食事は必要だ」と言われ続けても精神論です。前述の通りに外部環境によって自律能力が低くなってしまう私としては『レコーディング・ダイエット決定版 (文春文庫)』と同じようにアーキテクチャを構成して、敢えて環境管理される必要があり、それこそが『システム自炊法』の構築であると考えました。

システム自炊の構成要素

 あるシステムについての機能や性能を安定的に発揮できるかを検証するためにRASISと呼ばれる評価指標があります。さすが『どう考えても楽勝だった応用情報技術者試験 - 太陽がまぶしかったから

RASIS 日本語 意味
Reliability 信頼性 不具合の発生しづらさ
Availability 可用性 不具合発生におけるサービスの継続提供
Serviceability 保守容易性 復旧や改善のしやすさ
Integrity 完全性 障害時における本質部分の強度
Security セキュリティ 外部からの攻撃に対する安全性

 つまり信頼性や可用性によって使用できない事態を少なくし、保守容易性によって弾力的に運用でき、セキュリティによって同調圧力や危険な食品から守り、完全性によって失敗しても身体を壊さないようにする。

 その結果としてもたらす事はサステナビリティ(持続可能性)です。週に1度だけ良いものを食べればという話ではないし、忙しく働きながら、遊びながらも一定のサービスレベルを継続的に自身へと提供する必要があります。面倒なのも、美味しくないのも嫌です。そのための具体的な手法が本書にはあります。

持続的なシステムのために

 システム自炊は持続的である必要がある。というのも、基本的に私自身には自炊や弁当作りをする習慣があって、外部に問題がなければうまく進めていけます。だから「外部を変えたい」というのが現状であり、そちらはそちらでソフトランディングに向かっているのですが、故に内的要因は変える必要がないというのも別問題です。

 私には「小は大を兼ねる」という信念があります。つまりいくら給料をもらおうが『年収150万円で僕らは自由に生きていく (星海社新書)』と思っておけば年間数百万単位で貯金できるわけですし*1、早く文章を書くための方法を考えているからこそ暇でも忙しくても長文更新が毎日できるのでしょう。調理時間や手間についても小さければ、状況が悪くなっても一定の範囲までは続けられます。

 お金や時間の剰余は基本的に所与になってしまうのだから、使う方をできる限り小さくしようということです。これは健康も同じです。事故や大病の確率まではコントロールできませんが、栄養不良によって「健康の払い出し」をなるべくしないようにする事に越した事はありません。

健康なシステムのために

 もちろん、どんなに堅牢なシステム自炊法を確立したとしても、結局はグラデーションの問題になってしまいますし、非常時に特化して簡単化しまえば平常時には効率が悪いものになってしまいます。それぞれの状況に特化した方法を冗長的に持つことによって個別最適を行っていくことも可能ですが、、それだけ事前の準備が必要となり、状況変化の完全な洗い出しも不可能であるため、無駄が生じます。

 このために柔軟な移行ができる余地を残しておき、非常時であっても80%のサービスで問題なく継続できるフェイルソフト構成であることが望まれます。「あわよくば」なんて事を良く言うのですが、最低限のところは一旦抑えて、そこから先は「おまけ」と考えることで楽になります。つまり「非常時の80%」を100%に設定し、時間に余裕があって普通の自炊ができたら120%と考えた方が楽になります。

外食は週11回に止めよ

 本書におけるシステム自炊法のキモは週に1回程度に保存性の高く、栄養価の高い常備菜をバッチ処理として作る作業をしておいて週の5割はそのような食事を食べることです。「外食は週11回に止めよ」という本書のキャッチコピーが単身赴任で忙しく働いている人間の目線で書かれているために心に響きます。3×7日の21回のうちの48%で良いんだと。

 自分の場合は朝ごはんを食べない習慣のまま10年生きていて、食べるとむしろ体調が悪くなることがわかっているので2 × 7 × 0.48 ≒ 7回を目標として平日の昼食や一部の夕食(残業・呑み会)は仕事上の付き合いもあるため、基本的には平時の夕飯と休日で対応していましたが、自衛を兼ねて弁当男子となりました。

システム自炊術

 料理はバッチ処理とオンライン処理に別れていて、バッチ処理を主体とすることで総計時間を減らすことができるし、なにより休日の余裕がある時間帯にタイムシフトが出来ます。夕飯を家で食べるといっても、どう頑張っても家につくのは19:30を超えており、20:00以降になることも珍しくはありません。なので、そこからさらに時間をかけて用意していたら、食後の消化時間がなくなって逆に不健康になる一方である。シェフ大泉か!。「夜中に食べるな」というのは小学生でも知っていることです。このため夕飯は玄関開けたら即座に食べられる必要があり、個別のオンライン処理は少ないことが望ましいです。

 システムにおいてはオンライン処理時間を削減するために、計算処理を予め夜間バッチとして終えておくことが一般的ですが、これと同じ話で予め常備菜を展開して冷蔵庫や冷凍庫に保存しておくという事です。そして常備菜は「都度の調理」が少ないことが望ましいです。
 

クラウド自炊法

 常備菜を作っておくといってもメニューはキンピラ(空炒りでも結構美味い)やおひたし、味噌漬け等々シンプルな惣菜である。レシピは本書や関連書籍、クックパッド(クラウド!)などに譲るほうが効率がよいため個々に書くようなことはしませんが、まぁ手抜き料理です。本書を読んで感じた気をつけることとしては以下の点です。お金の観点からも「ひと月9000円の快適食生活」などがおすすめ。

  • 外食のコピーをすることは全く意味がない(なら外食しろよ)
  • それなりに栄養が取れることを意識する
  • 比較的日持ちする素材・調理を行う
  • 食べる直前の追加調理が少ない惣菜とする

 常備菜を用意するにあたって本書で提示されているように冷菜を中心するというのは理に叶っています。冷菜は一度つくって冷蔵庫で保存しておけば、食べる都度の調理を必要としないし、油との相性が悪いためにダイエットにまで役に立ちます。

 直前の調理が必要ないため都度のオンライン処理時間の短縮になるし、食べる時になって停電になっていても問題ありません。短期間のホテル暮らしがわかっていればタッパーにいれて持ち込むこともできます*2。シリコンスチーマーに冷菜の要領で下ごしらえをして冷蔵しておいて、食べる直前にレンジや鍋を掛けるということもよくしています。

突発事象への対応

 理想的な献立を計画立ててやりくりをしようとしても、突発的な残業や呑み会というのも避けにくいものであり、基本的には生の食材は買いきり、使いきる前提でバッチ処理をしてしまう方がよいと考えています。不確定な「今後1週間で作るもの」を前提とした食材を購入するのではなく「今日作って1週間で食べるもの」にフォーカスして考えれば食材を買いすぎてダメにすることも少ないし、バランスも大局的に考えられます。都度で買物をしてしまうと余計な出費が増えてしまうし、夕飯を口にできる時間が遅くなってしまいます。

 常備菜は僅かなオンライン処理で食べられることと、外的要因でその日は食べられなくても次の日にも持ち越せて、最悪休日をバッファにすれば食べきれるようにすることが重要です。週の途中で足りなくなったら場合には弁当でも勝手きて、夜に明日からの追加分を作れば問題ない。シェフの気まぐれがしたくなったら、常備菜を休日に当てればよいのです。

 その辺はレコーディングダイエットの平均1500kcalと同じ考え方です。消費予測に基づいて予め用意をしておいて、想定外に消費が増えればインスタンスを増やし、需要が減ってもインスタンスを減らして調整できるようにしておくというのはまさにクラウドコンピューティングのサービスプロバイダ側で考えることであり、献立デッキの構築にも同じことが適用できます。

 また常備菜とは別枠でに日持ちする乾物や発酵食品の類を使って調整弁にする事ができます。漬物は出来合いを買ってしまうことも多いです。ごはんは基本的に冷凍のプリン飯であったが、最近は大塚製薬のマンナンごはんというこんにゃく入りのカロリー控えめ偽ごはんのクオリティが高いし、日持ちするでそれを使っています。本書に習えば玄米にすべきなんだけど、美味しんぼの影響からか玄米信仰はあまりない。

システム手帳としての、システム自炊

 常備菜や半調理食材はシステム手帳でいうところのリフィルであるため、何を入れておくか、何を予め展開済みにしておくか、並行的に消費していくかということを含めてメタボリズム(新陳代謝)を意識したデッキ構築の楽しみがあります。ましてや食材は刻一刻と変質してしまうものです。これは腐敗だけでなく漬け込み、発酵、熟成、乾燥のように時間と逆相関で質が上がるものもあります。

 我々プレカリアートはクラウドコンピューティングのように必要な時に必要なだけ資本家に自身の労働力を消費されてしまう時代なのであるから、自身の再生産もクラウドコンピューティング的に行うこととなり。そんな世界を革命する力を!とは言ってみるもののゾンビと化した脳髄や身体から力は出てこず、現状維持を是としてしまうところがあります。

 自宅の食卓を実家のそれと比較したときに感じる詫びさは品数にあるとは気づいていてはいましたが、確かに複数の常備菜をタッパーから取り出して皿を構成をしていくと掛かる手間はそう変わらずに侘しさを感じにくくなった。仕切り付き皿や弁当箱に彩りを考えて盛り付けるのは手札の構成に似ている。喫茶店のお洒落ワンディッシュランチみたいだしね!

 ビタミンとミネラルについてはカロリーと同様に簡略化して、レーダーチャートのように日毎の累積グラフをレコーディングすることもできる。これはレコーディングダイエットにおける1500kcal指標問題を少し複雑にしたものである。実際問題としては正確な情報を得ることが難しいので推測込みになるが、欠損を埋めるようにバランスを取ろうと無意識が働けばよいのだと思う。

 ただし、そのような前提での最適解を見つけたとしても、それを食べ続けるのは良くありません。そもそもが推測込みであるし、発癌成分やそこからは欠落していた必須アミノ酸の不足など別のリスクを抱える可能性が高く効率厨も考えものです。あと結局のところでビタミン剤は飲んでます。食べるものはバラエティゆたかであることにこした事はない。飽きるし。また本書でも触れられているが、多い量で必須栄養素を満たすことは可能であり、料理動画で有名なパンツマン氏のように十分な運動量を背景とした野菜たっぷりの大食いができれば栄養構成を気にする必要はそこまでありません。

 ただでさえ時間が取れないという不利な前提で「少ないカロリーを保つ」「必須栄養素は満たす」「両方」やんなくっちゃあならないってのが「文化系インドア毒男」のつらいところだな。覚悟はいいか? オレはできてる……のかな? そして美味しくなきゃ続きません。最初に出したRASISの話に戻すと、以下のようなまとめとなる。

RASIS 日本語 意味
Reliability 信頼性 楽であるかどうかを中心としておりシステムが破綻しにくい。
Availability 可用性 冷菜や発酵食品などの保存食品を使用すること、休日バッファを用意する事で柔軟に対応できる
Serviceability 保守容易性 週1回のバッチ処理で食材を使いきる前提とすることでメンテナンスが楽
Integrity 完全性 バラエティ豊かな常備菜を用意することで身体への蓄積リスクを分散する
Security セキュリティ 同調圧力や不健康欲求に屈しない心をレコーディングで意識する。

 本書で推薦されている本物志向の道具や自家栽培なについてはは自身の物を持たない生活とのコンフリクトや、時代の相違もあり、本書に書いている事を全て真似るのは難しいとは感じました。しかし、その考え方については得ることが多いです。良いシステムは仰々しくて堅牢な城ではなく、柔軟な構成物の組み合わせによって生まれます。私の実体は仮想現実の中で生きているのだと感じることも多いのですが、であるからこそ物理マシンとなる現実世界の身体の健康が必要なのであると自覚します。

 私の思考は不調だけを訴える身体に邪魔されるべきではないと考えています。もっとこの目で色々な物を見なければ、行かなければ、食べなければ、体験しなければ、リアルな脳内妄想も構築できやしないのです。そのための「システム自炊法」なのです。

システム自炊法―シングル・ライフの健康は、こう守る (中公文庫)

システム自炊法―シングル・ライフの健康は、こう守る (中公文庫)

*1:未読ですが。

*2:ちなみに出張族のためのホテル自炊というサバイヴ技法もあって、そちらも面白い分野であるが本書とは関係ないために割愛する